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原植生 [環境]

手もとの資料を整理していたら、前田(1985)が出てきた。関東平野の原植生はシラカシ林であるという説に疑義を呈したものである。改めて読んでみると、非常に興味深かった。以下、その要約。

関東平野の原植生として宮脇ら(宮脇・大場 1966, 横山ほか 1967)がシラカシ林を挙げて以来、多くの人が引用し、そういう立場からの報告も多いが、それを裏付ける根拠は弱い。

  1. 自然状態の保たれている地域(神奈川県高麗山、房総半島・伊豆半島)でシラカシが出現しない。
  2. シラカシの出現の仕方は不自然である。辻(1984)は「少なくとも段丘崖や丘陵脚部に、シラカシ林が広く存在していたことは事実であろう」としているが、そのような出現の仕方をするところは、シラカシの植栽木のある人里近いところである。辻のいうような場所のシラカシ林は、植栽ではないにしても、それをもとにして二次的に成立した林ではないか。
  3. 関東平野にはシラカシが他のカシ類に比べて桁違いに広く植栽されており、それを母樹とした後継樹も多く、時がたてば自然状態になってくるものがでてきても当然である。
  4. シラカシはかつて用途が広く、利用価値が高かった。育林の面からも優れた性質を持っており、そのため広く植栽されるようになったのであろう。いつごろから植栽されだしたかはさらに検討が必要だが、筑波研究都市内にある體見神社では、宝暦4年(1754年)の本殿改築の際、カシ(おそらくはシラカシ)の寄進があったことが記録されている(谷本 1982)。

その後の議論については把握していないが、この論文だけ読むとかなりもっともな気がする。谷本(1982)も手もとにあったので読み返してみたが、森があったから鎮守の森として残されたのではなく、むしろ宮飾林として積極的に植栽・保護育成が行われていたとの推定など興味深い。

京都周辺の社寺林についても、人為的な影響が強いというのは最近小椋純一さんが報告しているところであり、社寺林は必ずしも原植生の遺存物ではないとは確実に言えるだろう。

  1. 宮脇昭・大場達之 (1966) シラカシ群集に関する考察. 第13回日本生態学会講演要旨.
  2. 前田禎三 (1985) シラカシ林が関東平野の原植生かをめぐって. 群落研究2:3–7.
  3. 谷本丈夫 (1982) 體見神社周辺の植生. 體見神社修復工事報告書: 69–86.
  4. 辻誠治 (1984) 関東平野のコナラ林植生. 第31回日本生態学会講演要旨.
  5. 横山光雄・井手久登・宮脇昭 (1967) 筑波地区における潜在自然植生図の作成と、植物社会学的立地診断および緑化計画に対する基礎的研究. 研究学園都市計画. 20pp. 日本住宅公団.

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