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ナラ枯れに関するメモ 2011-03-28版 [仕事]

半年先の講座にむけて準備をはじめる。

[カシノナガキクイムシ]
粘着シートにつかまったカシノナガキクイムシ

[カシノナガキクイムシ]
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  • 「ナラ枯れ」とは、1980年代末から発生している、ミズナラ・コナラなどの樹木の大量枯死現象をさします[1, 2]。「ナラ類集団枯損」「ナラ類集団枯死」などとも呼ばれます[2]。
  • その原因は、「ナラ菌」などと呼ばれる菌(カビ)で、カシノナガキクイムシという虫がこの菌を運ぶことがわかっています[1, 3]。
    • ナラ枯れが問題となった当初は原因がわからず、「ナラタケ説」や「酸性雪説」などの説も出されましたが[4]、枯れた木から「ナラ菌」が分離され、培養した「ナラ菌」を接種するとナラが枯れ、その枯れたナラからは「ナラ菌」が再分離されることから、「ナラ菌」がナラ枯れの病原体であることが明らかになりました[5]。
    • その後この「ナラ菌」は新種として記載され、Raffaelea quercivoraという学名がつけられました[6]。
  • 2007年までに被害が確認されたのは、秋田・山形・福島・新潟・富山・石川・福井・長野・愛知・岐阜・三重・滋賀・京都・奈良・和歌山・兵庫・鳥取・島根・広島・山口・高知・宮崎・鹿児島の23府県です[2]。その後、群馬[8]・東京(島嶼部)・静岡[9]・大阪[10]でも被害が確認されています。
  • 枯れるのはブナ科の樹木のうち、コナラ属(ミズナラ・コナラ・クヌギ・ウバメガシ・ウラジロガシ・アカガシなど)、クリ属(クリ)、シイ属(スダジイ・ツブラジイ)、マテバシイ属(マテバシイ)の樹木です。一方、ブナ属(ブナ・イヌブナ)の枯死被害は報告されていません[2]。
  • なかでもとくに枯れやすいのがミズナラで、ついでコナラです[7]。
  • 太い木にはより多くのカシノナガキクイムシがとりつくだけでなく、次の世代の虫の数も多くなることが知られています[4]。このことから、かつて薪炭林として利用されていたナラ林が放置されて、太い木が増えたことが被害拡大の背景にあるのではないかと考えられています。
  • なぜ枯れる?
    • 大量のカシノナガキクイムシが木に穴をあけて侵入することで(これを「マスアタック」といいます)、木の防御が不能になります[11]。
    • ナラ菌が木の中で増殖すると、木は水を吸い上げることができなくなり水不足で枯れてしまいます[12]。
  • 今回問題となっている被害は1980年代末からですが、それより前にも被害が散発的に発生していました。
    • 1930年代に宮崎・鹿児島で発生した記録があります。その後、1940年代から1970年代にかけて鹿児島・高知・兵庫・山形・福井・新潟の各県で被害が発生した記録があります[2, 13]。
    • 江戸時代(1750年)にも、最近のナラ枯れと同様の被害が発生していたことが古文書からわかりました[14]。
  • 地球温暖化との関係
    • 地球温暖化の影響によりカシノナガキクイムシの分布域が拡大し、ナラ枯れに弱いミズナラの分布域にまで達したために大きな被害が発生したとの説があります。
    • しかし前述のように、温暖化の影響が顕著になる以前からナラ枯れは発生しています。また、最近のカシノナガキクイムシの遺伝解析の結果[15]もこの説に否定的なものとなっています。
    • ただし、直接の発生要因ではなくとも、温暖化による高温や乾燥の影響が被害を拡大させる要因となっている可能性は考えられます[1]。
  • 酸性雨との関係
    • 一部の「自然保護団体」がナラ枯れの原因は酸性雨であると主張していますが、それを裏付ける科学的な証拠は出されていません。木炭をまくことにより酸性土壌が中和されナラが枯れなかったとの主張もありますが、「使った、治った、効いた」の「3た論法」は科学的な証拠とはなりません。[16]
    • もっとも、上の温暖化と同様、被害を悪化させる要因となっている可能性は考えられないわけではありません。
参考文献
  1. 小林正秀・上田明良 (2005) カシノナガキクイムシとその共生菌が関与するブナ科樹木の萎凋枯死—被害発生要因の解明を目指して—. 日本林学会 87: 435–450.
  2. 高畑義啓 (2008) ナラ枯れとは何か. 黒田慶子編著“ナラ枯れと里山の健康” 全国林業普及協会, 東京) p.25–44.
  3. Kinuura, H. and Kobayashi, M. (2006) Death of Quercus crispula by inoculation with adult Platypus quercivorus (Coleoptera: Platypodidae). Applied Entomology and Zoology 41: 123–128.
  4. 衣浦晴生 (2008) 病原菌の媒介昆虫カシノナガキクイムシ.(黒田慶子編著“ナラ枯れと里山の健康” 全国林業普及協会, 東京)p.45–66.
  5. 伊藤進一郎・窪野高徳・佐橋憲生・山田利博 (1998) ナラ類集団枯損被害に関連する菌類. 日本森林学会誌 80: 170–175.
  6. Kubono, T. and Ito, S. (2002) Raffaelea quercivora sp. nov. associated with mass mortality of Japanese oak, and the ambrosia beetle (Platypus quercivorus). Mycoscience 43: 255–260.
  7. 小林正秀・萩田実 (2000) ナラ類集団枯損の発生経過とカシノナガキクイムシの捕獲. 森林応用研究 9: 133–140.
  8. 群馬県 (2010) 群馬県における「ナラ枯れ(カシノナガキクイムシ被害)の発生について. http://www.pref.gunma.jp/houdou/e3110007.html
  9. 静岡県 (2011) 「ナラ枯れ」被害が静岡県で初めて発生しました. http://www.pref.shizuoka.jp/sangyou/sa-770/news/nourinngyounews221109.html
  10. 大阪府 (2010) ナラ枯れ被害が広がっています. http://www.pref.osaka.jp/hodo/index.php?site=fumin&pageId=4499
  11. 二井一禎 (2003) マツ枯れは森の感染症—森林微生物相互関係論ノート—. 222pp. 文一総合出版, 東京.
  12. 黒田慶子 (2008) 感染木が枯れる仕組み. 黒田慶子編著“ナラ枯れと里山の健康” 全国林業普及協会, 東京) p.67–88.
  13. 伊藤進一郎・山田利博 (1998) ナラ類集団枯損被害の分布と拡大. 日本林学会誌 80: 229–232.
  14. 井田秀行・高橋勸 (2010) ナラ枯れは江戸時代にも発生していた. 日本森林学会誌 92: 115–119.
  15. Shoda-Kagaya, E., Saito, S., Okada, M., Nozaki, A., Nunokawa, K. and Tsuda, Y. (2010) Genetic structure of the oak wilt vector beetle Platypus quercivorus: inferences toward the process of damaged area expansion. BMC Ecology 10: 21.
  16. Gazing at the Celestial Blue 熊森とひっつきもっつき、その2の2 http://azuryblue.blog72.fc2.com/blog-entry-938.html

タグ:森林
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